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0郷土芸能

日本で最も郷土芸能が多く残る岩手県。遠野でも暮らしに根付いた多種多様な郷土芸能が継承されており、実に人口の半分が郷土芸能団体に関わっている。今でも60の団体が活動していて、山の神への祈りを捧げる「神楽」、獣と人との密接な関わりを表現する「シシ踊り(鹿踊り、獅子踊り)」、五穀豊穣を祈る「田植え踊り」。ほかにも「南部ばやし」、「さんさ踊り」、「大神楽」など、小さな盆地の山、里、町エリアにそれぞれの踊りがある。

主に夏の間、各地の神社で郷土芸能の奉納が行われたり、イベントで披露されたりする。9月の「遠野まつり」では市内の全団体が一同に集結。神輿や流鏑馬も含めて色鮮やかな衣装と活気ある音色でまちが沸き立ち、その賑わいと華やかさはまさに「芸能の祭典」といえる。

遠野に郷土芸能が豊富に残る理由は、他のパートでも紹介している通り、圧倒的に厳しい冬の寒さがある。五穀豊穣を祈ることは日常であり、冬を越えて春を迎え、また食物実る夏から秋にかけてはその喜びとエネルギーは最高潮に達する。本州随一の寒暖差が郷土芸能のバリエーションと力強さを支えていると言えよう。

なお、遠野で継承されている郷土芸能は、遠野で生まれたものではなく、地域外から持ち込まれたものが多い。宿場町として機能した遠野は昔から人々の往来とともに様々な文化が流入してきた。外の文化を受け入れ、盆地の中で発酵させる。遠野のシシ踊り自体も、神楽の山の神舞や田植え踊りをミックスして作られているように、様々な文化を受け入れ、カスタマイズさせる柔軟さが遠野の特徴である。山を越えて様々な民話が集まって『遠野物語』が生まれたように、60を越える郷土芸能もこうして集まり、定着した。

また、今日まで芸能が続けられてきた理由の一つとしては、「地域コミュニティの結束を高める」目的もあったと考えられる。夏から秋にかけて多くの練習と本番が繰り返され、同じ衣装を着て、同じリズムを刻み、踊る。こうした一連の活動がコミュニティの団結を高め、メンタリティを形成するのは自然な流れである。また、自ずと隣の集落よりもカッコよく、また目立ちたいと思うようにもなる。口に出さずとも「自分たちが一番上手だ」と、皆が思っている。

もう一つの理由は、「非日常を感じることができるため」ではないだろうか。周囲を山に囲まれた盆地で暮らし、現代ほど自由に移動が出来なかった遠野の人々にとって、旅に行かずとも非日常感を感じることのできる祭りという特別なイベント、加えてシシや神楽の神など、“自分でないもの”に変化できる郷土芸能は必要な機会だったのだろう。農業など土地と離れては暮らせない人々にとって、生き抜く工夫だったのかもしれない。

ちなみに、昨今の人口減少によって存続が危ぶまれる団体も少なくないことから、積極的に移住者や、お祭りの時期だけ参加するソトモノを受け入れるところも増えている。「伝統芸能」ほど敷居は高くなく、温かく受け入れてくれるため、舞手はもちろん、太鼓や笛、その他の手伝いなどでも気軽に関わって欲しい。数百年続いてきた芸能の輪に入り、土地の人々と土を踏み、踊り、音を鳴らすことは、この上なく土地と接続した感覚を得ることができる。

文:富川岳


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1神楽

神座を設けて神を招き、神の化身となって祈祷や託宣を行う日本全国にみられる芸能。厄払いや清めの祈祷をしたり、五穀豊穣の祈りを捧げたりする。遠野の郷土芸能の中でも最も多くの伝承記録が残り、多様性がある。

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2シシ踊り

およそ400年以上前に遠野に伝えられた郷土芸能。鹿踊とも獅子踊とも記され、遠野では霊獣「シシ」と刀を持つ踊り手が集団となって踊ることから「人と自然の対立と調和」を表現していると言われる。元々は狩猟で獲れた鹿および猪など四つ足動物の供養として始まったと言われ、東北地方に様々な様式で分布している。

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3田植踊

古くから農作物の豊作を祈り、収穫が振るわない年も農事を楽しく終えられるように念願するために踊られてきた。「種まき」や「苗取り」など、米を収穫するまでの作業や物語を踊りで表す。

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4南部ばやし

江戸時代に遠野を治めていた遠野南部氏が遊芸師に命じて京都の「祇園ばやし」を参考に遠野郷の特色を入れて生みだしたと伝えられている遠野独特の町方の郷土芸能。


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1遠野まつり

毎年9月中旬の土日に開催され、市内60の多様な芸能団体が一同に集結する芸能の祭典。色鮮やかな衣装と活気ある音色でまちが沸き立つ様はまさに異界。

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2各神社の例大祭

毎年7月から9月頃まで、遠野市内各地の神社で一年に一度の例大祭が開かれる。午前中に行われることが多く、神事が行われた後、近くのしし踊りや神楽団体などによる奉納が行われる。イベントではなく、「奉納」という本来あるべき昔ながらの祭り、郷土芸能を目にすることができる。