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0シシ ― 動物と人間のあいだ

東北で広く踊られ、遠野では400年続いてきた郷土芸能「シシ踊り」。現在、市内では中断中も含めて17団体が活動している。「シシ」という霊獣と「太刀振り」という刀を持った人が、太鼓や笛の音色に乗せて舞い、踊る。時に戯れ、時に戦うように、向き合い、回旋し、最後はシンメトリーに踊ることから、「自然と人の争いと調和」の歴史を表現しているとも言われる。自然は決してコントロールできるものではなく、向き合い、調和していくもの。シシ踊りは我々にそう教えてくれている。

「シシ」は独特なフォルムをしている。牛の角、鹿の目、龍の鼻、馬の尻尾の髭をつけ、様々な獣たちのパーツを組み合わせたキメラとも言われる。頭の中央には神社の社紋や霊山の名前などが掲げられ、その土地で生きてきた人々が大切にしてきたものが分かる。また、髪の毛のように見えるものは「カンナガラ」と呼ばれる木を薄く削ったもの。「御神木」や「榊」など、古来より神の依代が木であるように、カンナガラにも神が宿ると言われている。シシが立ち去った後は大量のカンナガラが落ちており、これを拾うと幸運がもたらされる。

「シシ踊り」は鹿踊りとも獅子踊りとも書き、一説によると狩猟に由来し、鹿を供養するために始まったとされる。遠野で行われる鹿や熊の猟は、かつて秋田を中心に活動していた「マタギ」が大人数で行った狩とは異なり、単独か小人数で行われてきた。故に、自ら動物の命を奪ったという認識が強くなり、芸能にも影響を与えたと考えられている。

現在は猟師の人数も減少していることもあり、獣の供養だけではなく、先祖や死者供養のために踊られることが多い。8月のお盆では遠野はもちろん、東北でシシ踊りによる鎮魂の儀礼を多く見ることができる。

霊獣をかぶって獣や死者の鎮魂のために踊る「シシ踊り」。なぜ人は獣を被って踊る必要があるのだろう。獣頭芸能は世界各地にあり、古くは洞窟の壁画にも登場する。「動物という言葉が登場したのも最近」。文化人類学者・石倉敏明氏によれば、シシ踊りは、時間的にも空間的にも広くカバーするもので、人も、獣も、死者さえも区別しなかった時代の記憶を、内なる野生を蘇らせる踊りだという。そもそも「シシ」という言葉は、鹿やカモシカ、猪などを広く指すもので、やがて四つ足の動物全体をもシシと呼んだという非常に柔軟な概念なのである。

人と自然、人と動物といった区別をするのではなく、人も獣であり、人も自然の一部である。シシ踊りや「シシ」という概念を通して、現代を生きる私たちは、内なる野生を、内なる魂を何度でも取り戻すことができる。

文:富川岳


RCulture Bites

1シシ踊り

およそ400年以上前に遠野に伝えられた郷土芸能。鹿踊とも獅子踊とも記され、遠野では霊獣「シシ」と刀を持つ踊り手が集団となって踊ることから「人と自然の対立と調和」を表現していると言われる。元々は狩猟で獲れた鹿および猪など四つ足動物の供養として始まったと言われ、東北に様々な様式で分布している。

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2ゴンゲサマ

遠野の神楽衆が奉じる「シシ」の姿をした御神体。火伏の神であり、火事を喰い消すという伝説が残されている。神楽祭では参加者がゴンゲサマに頭を噛んでもらう厄除けの儀式が行われる。

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3遠野まつり

毎年9月中旬の土日に開催され、市内60の多様な芸能団体が一同に集結する芸能の祭典。色鮮やかな衣装と活気ある音色でまちが沸き立つ様はまさに異界。


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1早池峯神社

遠野三山の女神の末娘が暮らす早池峰山を信奉する神社。大同元年(806)建立。広い神聖な境内に杉や桧の巨木が並び、ここだけ空気が違う。主祭神は水神と伝えられており、7月17〜18日に行われる例大祭では必ず雨が降ると云われる。※花巻にも同名の神社があるため間違えないよう注意

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2菅原神社

柳田国男が『遠野物語』執筆中に遠野を訪れた際にシシ踊りを目にし、序文にも記した「天神の山」。8月後半に例大祭が行われ、昔ながらのまつりの景色を目にすることができる。